感想
映画『セッション』の4Kリマスター、Dolby Atmos対応版を、109シネマズプレミアム新宿にて鑑賞。
ちょうど歌舞伎町のど真ん中にありながら、静かな早朝の上映だったこともあり、館内をじっくりと見て回ることができた。
この映画館、坂本龍一が音響監修を手がけたことでも知られ、彼の遺作的プロジェクトのひとつとも言える場所。ロビーには教授の楽曲の楽譜やグッズが並び、映画館というより文化的な空間としての空気感が漂っている。
上映前には、10階のロビーから見える東宝ビルのゴジラ像を眺めながら、おかわり自由のポップコーンをつまむ。座席はリクライニング付きでゆったり設計されていて、音響と映像のクオリティを全身で受け止められるような設計になっている。
実はこの作品、公開当時は観るタイミングを逸していたのだけれど、今回のリマスター版でようやく初鑑賞。オリジナルとの違いはわからないが、Dolby Atmosによる音響体験はまさに音に包まれる感覚。音楽映画の本領発揮という感じで、映画館ならではの体験だった。
デイミアン・チャゼル監督の出世作とも言われる本作には、『ラ・ラ・ランド』に通じる演出も垣間見える。フレッチャーがクビになった後にピアノを弾くバーのシーンは、まるでセブ(ライアン・ゴズリング)が演奏するあのバーを彷彿とさせる。監督自身が好む空間、そしてそこに宿るドラマの構造が透けて見えるようだった。
主演のマイルズ・テラーは、のちに『トップガン マーヴェリック』でブレイクするわけで、今になって観ると出演陣の成長やタイミングが重なって完成した奇跡の一作だったと実感する。
この映画が描くのは、努力や才能だけでは成し得ない、ある種の“事故”のような衝突と化学反応。その過程で人が巻き込まれ、巻き込まれることで新しい表現が生まれる。その感じがまさにJazz。周囲の理解や合意よりも、自分の追求をぶつけた結果、他者が自然と惹きつけられる。そのプロセスにこそ、“天才”が宿る。
クライマックスのセッションシーンは、台詞ではなく音楽だけで感情が交錯し、伝わってくる。あの潔さ。説明を省いても観客に伝わるという信念。音楽の力を信じているからこそ成立する映像体験だ。
音圧の高い劇場空間でこそ、この作品の真価が発揮される気がする。TVや配信で観ていたら、「車で事故ってそのまま?」なんてツッコミが先に来ていたかもしれない。でも、映画館という“身体で観る”場での鑑賞は、その些細な違和感すら飲み込んでしまう熱量があった。
映画『セッション』の概要:
- 監督・脚本: デイミアン・チャゼル
- 出演: マイルズ・テラー(アンドリュー役)、J・K・シモンズ(フレッチャー役)
- ジャンル: ドラマ、音楽
- 上映時間: 約107分
- 受賞歴: 第87回アカデミー賞で助演男優賞、編集賞、音響賞を受賞
ストーリーの見どころ:
物語は、名門音楽学校に通うドラマーのアンドリューが、伝説的な指導者フレッチャーのバンドに抜擢されるところから始まります。フレッチャーの過酷な指導とアンドリューの執念がぶつかり合い、音楽を通じて極限の心理戦が展開されます。特に、クライマックスの演奏シーンは圧巻で、観る者を釘付けにします。
関連作品と監督のその後:
デイミアン・チャゼル監督は、本作の成功を経て、2016年に『ラ・ラ・ランド』を手がけ、アカデミー賞で監督賞を受賞しました。『セッション』と『ラ・ラ・ランド』の両作品には、音楽と情熱、そして夢を追い求める若者たちの姿が描かれており、共通するテーマが感じられます。
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