NISSAN GT-R車両開発主管 水野和敏によるGT-R2012年モデルの開発秘話

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NISSAN GT-R車両開発主管 水野和敏のお話が聞けるイベントが横浜にある日産グローバルヘッドクオーターの日産ギャラリーに聞きに行ってきました。

NISSAN GT-Rセミナーを開催

元々R32のGT-Rに乗っていたと言う事もありますが、現在のR35の開発主管である水野さんについて興味を持つきっかけになったのはかれこれ2年前のフェルディナント・ヤマグチさんが日経ビジネスオンラインに連載しているこちらの記事がきっかけです。

日産発世界行き、ノンストップ「水野劇場」開幕!!第12回:日産 GT-R【開発者編】その1
全3回あります。2年前だと景気も今とは違うわけですが、2011年に読み返してもそんなにぶれてないし、着実にその実現に向けて進んでいたという事を再確認出来ます。

そもそもカルロスゴーン氏がGT-Rの開発を発表したのが2001年の東京モーターショー。紆余曲折があって水野さんがGT-Rを担当して、2007年に発売し、年々進化して量産車ベースの車で世界最速をニュルブルクリンクで出し続けているわけですが、今日はその理由の一端に触れられた気がしましたし、確かに日本の工業技術の先に目指すべき方向を具体的な形で表現したいエンジニアの想いを感じ取ることが出来ました。

セミナー自体の内容はUstreamで公開されているのでお時間ある方は是非一度ご覧ください。

個人的に印象に残ったのは例えばこんな話。
・ラインで組めるからGT-Rは安く作れる。その裏には部品精度の高さがある。
(JIS規格は10%、ドイツ車は4%位。GT-Rの部品の誤差は1%との事)
・ドイツ車が良いと感じるのはこの誤差の規定。日本メーカーは今ある規格に縛られるのではなく、自ら規格を作り、それを新しい規格としていく事で世界と戦える。
・安く作れる分をおもてなしの費用に充てる事で「感動」を生む車を作る
・アウェイだから負けても仕方ないではない。アウェイで勝つ、相手のテーブルで勝負して勝つから尊敬され、ブランドが出来るし、チームをそういう形に持って行くのが監督の責任。
・世界トップクラスではない。世界でぶっちぎり状態で勝つ。
・ぶっちぎりで勝つための実現には「人」がいる。限界を試せるドライバーとエンジニア。
・限界だけを強調したスペックではなく、実際に走る人が感じる部分のスペックで作り、そこを世界で評価されている。例えばエンジンの出力の出し方。最大出力は少なく見えるが、常用域のトルクの立ち上がりが違う。どっちが速く走れるかを考えれば答えは明白。
・金メダルを取るのは前人未踏の地に入るもの。前例が無いから到達できる領域。そこまで考え抜いた結果、到達するもの。だから後継者を育成すれば良いと言う話では無くそういう才能を持った人が必要。実は目の前の課題。

話を聞いている途中でふと頭をよぎったのは先日観に行った映画「マネーボール」です。ビリー・ビーン役のブラピが金持ちのメジャーチームと同じ事をやっていても勝てないので、勝利に必要な出走率をあげるアプローチで勝つチームを作り上げた話ですが、勝率と言う明白な結果によってアプローチの仕方の正しさを証明する事は、水野さん率いるGT-Rチームがニュルブルクリンクでのタイムアップを目標としている点と近しい気がしました。感動はその結果がニュルスペシャル版ではなく普通に買える市販車で行っている点が加わることで生まれるのだろうと思います。

もちろん水野さんが言うthe world of GT-Rの世界観はユーザーにもそれだけの知識を求めるものですが、メーカーと消費者の間を埋めるのがいわゆる評論家、ジャーナリストではないか、と言う問いかけは、他の商材においても同じ課題を持っている話なので、大変共感しました。「良い車を買いたい」と思っている人ならみんな同じ事を思っているはずですし、それはいわゆる「口コミ」もある程度お金で買える時代になってしまったPR市場を考えると、常に情報の非対称性があるので、まだまだ改善の余地が多い部分。

もちろんメーカーと消費者が逆転することも対等な立場になる事もしばらく無いのだと言う気はせざるを得ないのですが、企業で働く身分として視点を変えるならプロダクトアウトとマーケットインの違いと読み替える事でしっくりくるかも知れないと思いました。理解できない人にはプロダクトアウトにしか見えない商材も、実はマーケットインの要素も含んでいるわけで、結局のところ原点は「自分が欲しいと思えるか?人に勧められるか?」と言う問いに答える事だと思います(つまりそういうペルソナを設定しているか?の裏返しでペルソナがどれだけの規模か?の話)。

時間無くて聞きそびれてしまいましたが、聞いてみたかったのが水野さん自身のモチベーション維持方法って何だろ?って事です。たぶん、R35を始める段階で想定していた勝てる方程式は実現してしまったか、もう目処が付いているんだと思うので、本当に前人未踏の領域に入ってしまっているのだと勝手に想像してます。だからその先の目標の一つとして、これまで造ったものを広げていくこういうPR活動も積極的に行っているんだろうと思いました。

エンジニア側の感覚が強い方ならきっと何かしら気づきが多いお話ばかりなので、日本のエンジニア力の良さを拡げていただきたいです。

行ってみて良かった。

2011_NISSAN_GALLARY_GT-R 92


<2013/08/15>
既に日産を退職なさっているのですが、退職後のインタビュー記事
日産GT-Rの水野氏が退職、緊急インタビューを敢行!:日経ビジネスオンライン

水野和敏さんの公式サイトはこちらです。
水野和敏  [公式HP]

プロフィール
書いた人
野崎 秀吾

Content Syncretist(コンテンツシンクレティスト)
✨ コーヒーとクラフトビールの愛好家で、在宅勤務を楽しむジェネレーションアルファ世代の父。Bromptonでのサイクリングをこよなく愛する。

最近のプロジェクト:
AIを活用して、架空のファッション雑誌風写真集を出版。デジタルアートの新境地を探求。
1999年から続く私のウェブサイトは、私の長年のライフワークであり、成長と学びの旅の記録です。未熟なコンテンツもありますが、それもすべてが私の経験の一部。SNSで私を見かけたら、ぜひお声掛けください。AIとクリエイティビティ、音楽制作の裏側、あるいは日常のことなど、皆さんとの交流を楽しみにしています。

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