倫敦から来た男と言うタル・ベーラと言う監督の作品を観てきました。
原作はジョルジュ・シムノンの同名小説。
Bitters End 配給作品『倫敦から来た男』公式サイト
ご覧の通りモノトーンの作品です。
ストーリーは夜勤で鉄道のポイントを切り替えている転轍手の主人公(マロワン)が、たまたま巨額の札束が入った鞄に絡んだ殺人事件を目撃してしまい、その鞄を拾い上げてしまうところから、いつもと違う毎日に展開していくと言うサスペンスです。
人であれば誰にでも欲はある。例えば幸せになりたい、家族に良い生活をさせたい。
別に大きな欲望でも無いささやかな欲望。
そんな願いを叶えられる手段が目の前にあった時に、それまで全く関係なかった他人の人生と交わり、それまで予期すらしなかった方向に人生の歯車が向かってしまうわけです。
この映画はそんな日常から生まれるほんの少しのほころびから生まれたストーリーで、ある意味人類が理念、信念や宗教によって自らに課してきた課題とその一線を超えた先に現れる世界を淡々とした映像によって表現していると思いました。
映像的な特徴はやはりステディーカムによるものすごい長回し。
オープニングの色々あるシーンはかれこれ20分以上あるのかも知れませんがおそらくそのまま止めずに一気に撮っていると思います。
カメラの視点は主人公と一体になりながら、更に第3者の存在として、微妙に離れた距離感で一定しています。それゆえ主人公すら感じ取ることが出来ないその場の緊迫した空気を観客が感じることに成功していると思いました。
ひとりの人間の顔をずーっと同じアングルで撮り続けたシーンなど、きっと役者もたまったもんじゃなかったに違いないと思います。
原作の方では家族構成が違うようで、映画では3人家族なのですが、原作は4人家族とちょっと複雑さが増しているようです。
主役を演じているのはミロスラヴ・クロボットと言うじゃがいも顔の俳優でチェコの方のようです。映画は基本的に彼の背中と渋い顔で展開されていきます。
このマロワンの妻を演じているのはティルダ・スウィントンです。
彼女の出演作として有名なのは
前評判の割にはちっとも面白くなかった「フィクサー」
堕ちた天使役の「コンスタンティン」
昨年のアカデミー賞では盛り上がった「ベンジャミン・バトン」
他にもあれこれヘンテコな役で映画に出演している名の知れた女優なのに、今作ではものすごく地味で寂れた中にも、必死に家族の生活を考えて暮らしている妻役を演じています。今作は彼女の演技力の一旦を垣間見る事が出来る作品とも言えます(とはいえ訳あって後半はほとんど出てこないのですが)。
映画としては単館系だし、流行りのCGでもなければまして3Dでありません。あんな顔が3Dになったからと言って、話題にもならないでしょう。しかしタル・ベーラがカメラ長回しで描いたある男の普通の日常の映像は、どんな最新技術でも描ききれない生々しさがありながら、時間が止まった絵画のような美しさを持ったモノクロ作品になっていました。
音楽もひと役買っており、テーマ曲的なもの含め、作品数は少ないながら印象的なシーンで用いられており、モノクロで平面的な映像に深みを与える役目をしっかり果たしています。
ヒスノイズも結構ひどい作品なのですが、観ているうちにそんなノイズもひとつのリズムとして味わえるようになってしまうと思います。
興味がありましたら劇場で雰囲気を味わってみてください。
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